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【絵画史上、最大のナゾ】浮世絵師「写楽」とは、いったい何者だったのか? 1年で大量の作品を生み、姿を消した天才

日本史あやしい話43


絵画史上最大の謎とされるのが、「写楽は誰か?」という命題である。2025年大河の主役・蔦屋重三郎によってプロデュースされ、スターとなった浮世絵師・写楽は、1年にも満たぬうちに忽然と姿を消した。長い間その正体は議論され、昨今はその実像が少しずつ見えてきたようである。写楽とは、いったい何者だったのだろうか?


 

■2025年大河ドラマの主人公・蔦屋重三郎

東洲斎写楽画 三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛( Metropolitan Museum of Art) 

 

 少し気が早いが、今回は2025年に放映される大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」にまつわるお話である。主人公は、江戸時代の敏腕プロヂューサー・蔦屋重三郎。演じるのは、横浜流星さんである。

 

 一説によれば、彼の才能は多彩で、出版プロヂューサーとしてだけでなく、絵師としての能力にも長けていたというから、今で言うところのマルチタレントとでも言うべき存在だったことが推測される。

 

 ただし、生まれは吉原の遊郭とあって、少年時代はおそらく、相当辛苦を舐めたに違いない。引手茶屋という遊郭を案内する茶屋に養子としてもらわれた後、「吉原細見」なる吉原案内書の販売権を獲得したことが、彼の人生を変えたようである。

 

 その販売を手がけるとともに、黄表紙や洒落本、狂歌本、錦絵などの出版にも手を広げ、次々とヒット作を生み出し続けたというから、先見の明に飛び抜けていたと言うべきだろう。

 

■社会が萎縮し、出版物も規制された時代

 

 すでに元禄文化華やかりし時代も過ぎ去り、明和の大火や、天候不良と浅間山の大噴火に端を発した天明の大飢饉などによって、社会が萎縮し始めた時代であった。全国で2万人以上もの人々が餓死したとの記録(杉田玄白『後見草』)まである。

 

 当然のことながら、幕府の財政も深刻さを増し、8代将軍・吉宗が財政再建を目論んで享保の改革に着手。さらに、幕閣・田沼意次が倹約を旨とする田沼の改革を推し進め、跡を継いだ老中・松平定信も寛政の改革を断行している。出版物に対する締め付けも厳しくなっていったようである。

 

 その影響からか、寛政3(1791)年に、山東京伝の洒落本や黄表紙が出版統制令に違反したとして摘発され、手痛い打撃を受けてしまった。京伝は手鎖50日、版元の蔦屋も財産の半分を没収されるという厳しい処罰を受けたのである。

 

 それでも挫けない蔦屋、3年後に東洲斎写楽なる新人絵師を発掘して、役者絵の分野において新たな活路を見出そうとしたのだ。その成果が、寛政6(1794)年5月から4回にわたって蔦屋重三郎店から刊行した145点余もの役者絵であった。

 

■忽然と姿を消した大スター・東洲斎写楽

 

 当初の発刊は28点。いずれも大首絵といわれる胸から上の半身像であった。それまでの役者絵とは異なり、構図が大胆でデフォルメすることも厭わず、表情も実に生き生きとしたものだったところに大きな特色があった。

 

 第2期の発刊は7月。今度は二人立全身像など38点を発刊。さらに11月に64点、翌2月に15点余等々、次々と新作を世に出していったのである。

 

 ところが、この4期目の発刊を最後として、以降新作が発表されることはなかった。作者である東洲斎写楽が、忽然と姿を消してしまったからである。その理由は今もって定かではない。

 

 そもそも、写楽なる絵師の正体すらわからないままであったから、実に謎めいている。もちろん、版元の蔦屋は知っていたはずであるが、彼は死ぬまでそれを明かすことはなかった。いったい何故なのか? 諸説が飛び交い、絵画史上最大の謎とまで言われるようになったのである。

 

「写楽は誰か?」というこの命題に対して、最初にその実名を掲げたのが、江戸時代の考証家・斎藤月岑であった。

 

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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